ムコ多糖症Ⅱ型の診断

ムコ多糖症のような乳幼児期に発症する先天性の希少疾患は、その頻度が低いことや症状の多様さから、確定診断に至るまでの過程が長いことが知られている(Diagnostic Odyssey)。進行性の疾患でもあり、治療が手遅れにならないために早期診断の重要性が指摘されている。

ムコ多糖症診療の現状

ムコ多糖症は、ムコ多糖を分解するライソゾーム酵素の先天的な欠損が原因であり、欠損酵素により7種の病型に分類される。
ムコ多糖症は症状が多岐にわたり、また出現時期も異なることから、最終診断にたどり着くまでにさまざまな代替診断を得ることがある。例えば、言葉の遅れや多動などの行動異常から発達障害として小児科に通院していたり、骨・関節症状によって療育を受けているケースなどがある。また、健診時に心雑音を指摘され、原因不明の弁膜症として経過観察されていることもある。
言葉の遅れや発達の遅れなど単一の症状では他の疾患でもみられることから、それだけでムコ多糖症を疑うことには繋がらない。ある特徴的な症状が加わることで、初めてムコ多糖症の可能性を疑うことになるが、該当する症状がある程度揃わないと、なかなか専門医に紹介できないのが現状といえる。

診断のポイント

言語面での発達の遅れや特徴的な顔貌、骨・関節症状など、ムコ多糖症はいくつかの特徴的な症状があり、これらが揃って初めて診断に繋がる疾患である。しかし、診断の遅れが症状の進行に直結することから、より早い段階で発見するには特徴的な症状を見逃さず、少しでも疑われる症状がみられた時点でムコ多糖症を疑わなければならない。(図1)は、健診時に心雑音を指摘され僧帽弁逆流症の診断でフォローされていたが、その後、診断の手掛りとなる種々の特徴的症状が出現し、ムコ多糖症を疑われた症例である。

図1

特徴的な顔貌

普通と変わらない新生児が緩徐な経過をたどり、4~5歳頃には特徴的な顔貌に変化していくため、一緒に暮らしている家族が変化に気づくことは少なく、むしろ初めて診察した医師が気づくことが多い。骨・関節症状は特徴的な顔貌よりも後に現れることが多く、“歩きにくさ”や“手の上がりにくさ”などが出現する頃には、特徴的な顔貌がある程度確認することができる。特徴的な顔貌に骨・関節の異常が加わるとムコ多糖症を疑いやすくなり、言葉の遅れに次いで特徴的な顔貌やオール状肋骨などの骨・関節異常の所見が確認されるとムコ多糖症の診断にさらに近づく。

鼠径ヘルニア

ムコ多糖症は、左右の鼠径ヘルニアで手術を受けている小児に比較的多くみられる。片方の鼠径ヘルニアは低頻度ながらみられることもあるが、左右ともというケースは珍しく、1歳までに左右の鼠径ヘルニアの手術経験のある小児では、ムコ多糖症を疑ってみる必要がある。

広範な蒙古斑

広範な蒙古斑も特徴的な症状の一つであるが、それだけで診断に直結する症状とはいえない。蒙古斑が広範囲にみられ、ムコ多糖症を疑ったときには、鼠径ヘルニアの手術歴や発達の遅れ、骨・関節症状などの他の症状にも留意にして診察することが重要である。

確定診断に至るまでの検査の進め方

生化学的診断、遺伝子診断などと組み合わせて確定診断を行う(図2)。

図2

尿中ムコ多糖分析

ムコ多糖症が疑われて受診されたとき、ムコ多糖症に特異的な生化学的診断法である尿中のムコ多糖分析をするのが確定診断への第一歩である。尿中ムコ多糖分析では、分解されずに体内に蓄積されたムコ多糖が尿中に排泄されることから、尿中にムコ多糖の構成成分であるウロン酸や、どの種類のムコ多糖が多量に排泄されているかなどを測定する。ムコ多糖の分画パターンによりムコ多糖症の病型の推測がある程度可能であり、ムコ多糖症Ⅱ型では、ウロン酸の排泄増加、ムコ多糖のうちデルマタン硫酸及びヘパラン硫酸の排泄増加がみられる。

酵素活性の測定

病型の推測ができたところで、疑われるライソゾーム酵素の活性を測定して病型を特定する。血液または皮膚組織を少量採取し、ライソゾーム酵素の活性を測定し、どの病型のムコ多糖症かを確定診断する。なお、原因となるライソゾーム酵素は全身に分布しているため、採取が簡便なろ紙血や末梢血中白血球を用いて測定することが多い。

遺伝子解析

遺伝子解析は、酵素活性で確定診断することができない場合などに必要に応じて行われるが、治療法の選択や予後を考える上では、病型と同時に遺伝子タイプが非常に重要な情報源となる。また、ムコ多糖症Ⅱ型はX染色体連鎖性遺伝形式をとるため(他のムコ多糖症は常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)形式)、家系内の女性保因者の検索には遺伝子検査が必要となる。
特徴的な症状がみられるにもかかわらず、ムコ多糖分析で異常が認められなければ、多くの場合、別の疾患の可能性を考える必要がある。

早期発見のための拡大新生児スクリーニング

ムコ多糖症では、さまざまな臨床症状が進行する中で、心臓弁の異常や中枢神経症状などは、治療開始のタイミングによっては十分な効果が得られない。症状が揃ってからでは治療開始が遅れてしまうことも少なくないことから、生後早い段階で診断することが望ましい疾患として捉えられている。
新生児マススクリーニングは、「希少疾患の発症前または早期に診断し、治療を可能にする」「専門医師ではなくても、希少疾患の除外がおおよそできる」「要精密の場合には、直ちに専門医師の診察を受けることができる」「確定診断後には標準的な治療が用意されている」などの利点がある。
熊本県では、“拡大新生児スクリーニング”として、既存の新生児マススクリーニング検査のシステムにムコ多糖症などを組み込んだ検査を実施している(図3)。そこで得られた情報に基づいて早期に診断し、治療を開始することが、現状の仕組みの中では最良の策と考えての試みである。生後すぐに採血したろ紙血を用いてムコ多糖症のⅠ型及びⅡ型の酵素活性を測定し、スクリーニングして酵素活性が低い場合には外来に来ていただき、尿中ムコ多糖分析を行い、異常があればムコ多糖症と確定診断して治療を開始する。その結果、Diagnostic Odysseyを防ぐことが期待できる。

診断後の家族へのケア

ムコ多糖症Ⅱ型に関してはX連鎖性遺伝形式をとる遺伝性疾患のため、母親が保因者である可能性がある。母親が保因者の場合、“自分が子供に病気を伝えてしまった”という心の負担を持たれていることがあるため、その点に留意しながら診断結果について説明する必要がある。
さらに、ムコ多糖症に対する治療の効果は開始時期や重症度によって個人差があること、現在の治療が一生続くのではなく、歳月の経過とともに新しいより効果の高い治療法が開発される可能性が考えられること、療養生活の不安を少しでも安心に変えるための医療的サポートや社会福祉的サポートなどの支援制度があることなどについて説明することも重要である。

図1〜図2 熊本大学大学院 生命科学研究部 小児科学講座 教授 中村 公俊 先生 ご提供


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