脳室内投与のためのリザーバ留置術の実際
リザーバ留置術の概要
植込み型脳脊髄液リザーバ(Ommaya リザーバ)の留置術は、脳外科領域における基本的な手術手技の一つである。水痘症患者における脳室内からの髄液採取及び脳圧測定などを目的に留置することが多い。その他、脳腫瘍患者に対する抗がん剤の脳室内投与のために留置することもある。
手術の概要としては、全身麻酔下でチューブ(カテーテル)を側脳室前角に留置し、次いで頭皮下に留置したリザーバに接続する。このリザーバを穿刺することで脳室内の髄液採取及び脳室内への薬剤投与が可能になる(図1)。
リザーバ留置術の適応及び安全性
リザーバ留置術は、超低出生体重児から成人まで、適応となる患者の年齢制限はない。体重1,000g程度でも留置できるが、薬剤の注入を考慮すると、新生児期の脳室は小さいため生後半年以降の留置が適当と考えられる。禁忌事項は、通常の手術と同様と考えてよく、出血傾向がなく、全身麻酔が安全にかけられる状態であれば、手術可能である。
リザーバ留置術は、前頭部より穿刺して側脳室前角にチューブを1本留置するだけの手術であり、これによって脳機能が損なわれることは基本的にはない。また、リザーバもチューブもシリコン製であることから、体内に留置し続けても問題はなく、日常生活上の制限もない。
術前検査・準備
チューブは側脳室前角に留置するが、術前検査として頭部CT撮影などにより、構造異常や器質的異常の有無について詳細に検討してシミュレーションすることが必要不可欠である。
カテーテルの長さなどは、頭部CT撮影時にどの程度の長さで挿入するかを画像から測定して、年齢に応じて決定する。術式自体が年齢によって変わることはない。さらに、リザーバ留置は全身麻酔下で行うことから、全身麻酔のリスク評価をしておくことも重要である(図2)。
また、手術は約1cm幅の脳室に向かってチューブを挿入していくことから、事前に撮影した頭部CT画像と連動したニューロナビゲーションの利用が有用である(図3)。
手術の流れ
体位(仰臥位で頭が心臓の位置より少し上)が決まれば、リザーバを留置する部位の皮膚を3~4cm程度切開して、頭蓋骨に直径2cm程度の穴を開け、脳表から脳室内に向かってニューロナビゲーションを用いてチューブを挿入する。チューブが脳室に到達したことを確認後、リザーバを頭蓋骨上に留置し、チューブの脳表側と接続して頭皮を縫合する。手術時間は年齢を問わず30分程度である(図4)。術後は頭部CT撮影によりチューブ先端の位置を確認し、穿刺部の出血の有無などの合併症に注意する(図5)。チューブ先端が不適切な位置にある場合には、入れ直すことがある。
術後は、抗生剤(セファゾリン)の投与を8時間ごと、術後72時間まで続け、術後8日目に抜糸を行う。なお、抗てんかん薬の予防的投与は行わず、発症時点で投与を考慮する。
術後合併症
頻度としては非常に低いが、術後合併症について下記にまとめた。
感染
リザーバ留置術単独での集計はないが、水頭症のシャント術での感染率は5%程度といわれている。リザーバ留置術での発症頻度は、シャント術に比較してはるかに低率と考えられる。手術時間は短く、清潔操作を確実に行えば感染リスクは低く抑えられる*1。なお稀ではあるが、傷口からの感染で髄膜炎を起こした場合には、リザーバの抜去が必要であり、抗生剤による治療後に入れ直す必要がある。
穿刺部の脳出血
稀に穿刺部の脳出血が見られることがあるため、凝固能をチェックすることが重要である。
他にも、「出血などによるチューブの閉塞」や「創部からの髄液漏」、「けいれん・てんかん」、「創部離開や縫合不全などの一般的な外科手術のリスク」についても十分に注意する必要がある。
日常生活での注意事項
サッカーや剣道など、繰り返し頭部に衝撃を与える可能性のあるスポーツなどは避ける必要があるが、他のスポーツは問題なく行える。一般的に、術創が治癒するまでの期間(術後1ヵ月程度)は運動や入浴を制限し(シャワーは可)、それ以降は通常の日常生活を送ることが可能で、手術部位の消毒も必要ない。
リザーバの入れ替え
リザーバの入れ替えは基本的には必要なく、稀にではあるが合併症や破損などで髄液採取や薬剤の注入ができなくなった場合は、リザーバの入れ替えを検討することになる。入れ替える場合はリザーバを全部抜いて新しいものに替えるが、癒着が強く出血の可能性がある場合は、反対側に新しいチューブを挿入するか、今入っている部位の脇から新たに挿入する。
*1 Kormanik, K., et al.:J Perinatol. 2010;30:218-221
図1〜図5 国立成育医療研究センター 小児外科系専門診療部 脳神経外科 医長 宇佐美 憲一 先生 ご提供
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