ヒュンタラーゼ脳室内投与のためのリザーバ留置の実際

国立成育医療研究センター 小児外科系専門診療部 脳神経外科 医長

宇佐美 憲一 先生

ヒュンタラーゼ脳室内投与のためのリザーバ留置の実際

ヒュンタラーゼ脳室内注射液15mgは、植込み型脳脊髄液リザーバを介して脳室内に直接送達することで、ムコ多糖症Ⅱ型の中枢神経症状の進行抑制及び改善が期待されている薬剤です。今回のドクターズコラムは、「ヒュンタラーゼ脳室内投与のためのリザーバ留置の実際」について、国立成育医療研究センター 脳神経外科 医長 宇佐美先生に伺いました(2022年6月取材)。

リザーバ留置術は、脳外科領域における基本的な⼿術手技です

植込み型脳脊髄液リザーバ(Ommaya リザーバ)の留置術は、脳外科領域における基本的な手術手技の一つです。多くの場合、水頭症患者での髄液の採取や脳圧の測定を目的に留置しています。他には、脳腫瘍患者に対する抗がん剤の脳室内投与のために留置することもあります。
手術の概要は、全身麻酔下でシリコン製チューブ(カテーテル)を側脳室前角に留置し、次いで頭皮下に留置したシリコン製リザーバと接続します。このリザーバを穿刺することで、脳室内の髄液採取や脳室内への薬液投与が可能になります。

リザーバ留置術の対象となる患者の年齢制限はなく、体重は1,000g程度を下限としています

リザーバ留置術は、超低出生体重児から成人まで、対象となる患者の年齢制限は特にありません。
リザーバの留置自体は体重1,000gくらいを下限としていますが、薬剤の注入を考慮すると、新生児期の脳室は小さいため、生後直ぐに留置するのではなく半年後以降が適当と考えられます。また、凝固異常がある場合や全身麻酔をかけられない患者では禁忌となります。
前頭葉にチューブを一本通すだけなので、これによって脳機能が損なわれることは基本的にはありません。水頭症で同様のリザーバ留置術を数多く行っていますが、脳機能が損なわれたことはありません。また、リザーバもチューブもシリコン製なので、体内に留置し続けても問題はなく、日常生活上の制限もありません。

リザーバ留置術の進め方

手術前の検査

チューブは側脳室の前角に挿入しますが、左右差のある場合は大きい方が上手く挿入できます。また、構造異常や器質的異常がある例が稀にみられるため、事前に把握しておく必要があります。脳に萎縮がある場合、硬膜下血腫などが存在している可能性があることから、必ず術前に頭部CT撮影などにより器質的な異常などをチェックします。さらに、リザーバ設置は全身麻酔下で行いますので、全身麻酔のリスクも評価しておきます(図1)。
カテーテルの長さなどは、頭部CT撮影時に何センチくらい入れるか画像から測定して、年齢に応じて決めていきます。術式自体が年齢によって変わることはありません。使う針と糸の太さなどが違うくらいです。

図1

手術の流れ

術者は患者の頭しか見えない状況で、約1cm幅の脳室に向かってチューブを挿入していきます。例えると、オレンジに針を刺して、種に当てにいくような感じです。そのため、脳室への穿刺にはCT画像と連動したニューロナビゲーションの利用が有用になります。ニューロナビゲーションは、脳神経外科のある施設であればほとんど導入されています(図2)。
体位(仰臥位で頭が心臓の位置より少し上)が決まれば、頭蓋骨に穴をあけ、ナビゲーションを用いてチューブを脳室に向けて挿入していきます。脳室に到達したことを確認後、リザーバを頭蓋骨上に留置し、チューブと接続して頭皮を縫合します。手術時間は年齢を問わず30分程度です。術後は頭部CT撮影によりチューブ先端の位置を確認し、穿刺部の出血の有無など術後合併症に注意します(図3)。

図2
図3

術後合併症の頻度は、シャント術に比べて低率です

リザーバ留置術だけを集計した感染症などの術後合併症についての報告はありません。水頭症のシャント術での感染リスクは5%程度といわれていますが、当院ではもっと低頻度です。リザーバ留置術はシャント術に比べて、感染症の発症頻度ははるかに低率です。手術時間が短く、術中は清潔操作で行っており、術後は抗生剤投与で感染予防をすることで、感染症の発症を抑え込むことができます*1。入院期間は当院では10日程度(抜糸は術後8日目)ですが、それまでの間に何も起こらなければ問題ありません。

リザーバの入れ替えについて

稀に合併症や破損などで髄液の採取ができなくなったり、薬剤の注入ができなくなった場合は、リザーバの入れ替えを検討することになりますが、そういったことがない限りは基本的にはリザーバの入れ替えは必要ありません。
入れ替える場合はリザーバを全部抜去して新しいものに替えますが、癒着が強い場合などでは無理に引き抜くと出血するため、その際は反対側に新しいチューブを挿入するか、今入っている部位の脇から新たにもう1本挿入します。

⽇常⽣活において注意すること

サッカーなど、繰り返し頭部に衝撃が加わるようなスポーツなどを避けていただければ、他のスポーツは問題なく行えます。ただ、当院では頭部の術創が治癒するまでの最初の1ヵ月間だけ運動や入浴を制限しています。抜糸直後は長時間の入浴やプールに浸かってしまうと傷がふやけてしまうことがありますので避けていただいています。それ以外は通常の日常生活を送れます。手術部位の消毒も必要ありません。

*1 Kormanik, K., et al.:J Perinatol. 2010;30:218-221
図1~図3 宇佐美 憲一 先生 ご提供

取材ご協力

宇佐美 憲一 先生

国立成育医療研究センター 小児外科系専門診療部 脳神経外科 医長

2002年 3月 筑波大学 医学専門学群卒業
2002年 5月 国立国際医療研究センター 脳神経外科
2005年 4月 日本赤十字社医療センター 脳神経外科
2008年 7月 東京大学医学部附属病院 脳神経外科
2014年 6月 フランス、パリ大学附属ネッケル小児病院 小児神経外科
2016年 4月 国立成育医療研究センター 脳神経外科
2019年 7月 国立成育医療研究センター 脳神経外科 医長, 現在に至る
(2022年10月現在)