脳室内投与の実際
リザーバを介したヒュンタラーゼの脳室内投与は通常、脳外科医ではなく小児科医が行います。今回のドクターズコラムは、「脳室内投与の実際」について、国立成育医療研究センター 遺伝診療科 蘇先生に伺いました(2022年6月取材)。
ヒュンタラーゼ脳室内投与にあたって
ヒュンタラーゼの脳室内投与は通常、脳外科医ではなく小児科医が行います。日常臨床において、小児科医はCVポートによる薬剤投与の経験があります。リザーバを介したヒュンタラーゼの脳室内投与は、CVポートからの薬剤投与とほとんど同じ手技で行えます。
脳室内投与の準備と投与の⼿順
来院時にはバイタルサインをチェックし、問題がなければヒュンタラーゼの調製を薬剤部に依頼します。来院から投与の準備及び投薬までを、30分から長くても60分程度で終了して帰宅できるような体制で、治療を行っています。
準備
リザーバの穿刺には、27ゲージの翼状針を使⽤しています。その他、滅菌シリンジ(髄液採取⽤、薬剤投与⽤)、滅菌ガーゼ、テガダーム等の透明粘着フィルム、滅菌ハサミ、ポビドンヨード等を滅菌シート上に準備します(図1)。
準備するもの
- 27G翼状針
- 滅菌シリンジ
- 滅菌ガーゼ
- テガダーム等の透明粘着フィルム
- 滅菌手袋
- 滅菌ハサミ
- ポビドンヨード 等
投与手順
ヒュンタラーゼの投与は、外来のベッドで行っています。介助者は保護者1名及び看護師1名、投与は小児科医が行います。多くの場合、母親がスマートフォンなどで動画を見せながら、患児が首を振らないように看護師がしっかりとサポートして投与を行っています。
- リザーバの位置を触診で確認し、剃毛して周囲をアルコール綿で清拭します。
- 髪の毛が清潔野に付着しないようにテープで固定し、一般的なCVポートへの穿刺と同じ要領で穿刺部位をポビドンヨード液で3回消毒します。
- ヒュンタラーゼをシリンジに充填します。
- 滅菌ガーゼを4つ折りにし、角をカットします。中央に空いた穴にテガダームを貼り穿刺部位を覆い、27G翼状針でリザーバ穿刺して脳脊髄液(2mL)を採取します。
- 脳脊髄液を採取後、注射器を付け替えて約1分かけてゆっくりとヒュンタラーゼ(2mL)を注入します。
- 抜針し、穿刺部位を軽く滅菌ガーゼで圧迫して出血等のトラブルがないことを確認します。
- トラブルがないことを確認後、ハイポアルコールで付着したポビドンヨードをふき取った後に、保護シールを貼ります。
投与時のポイント
- 動画などを見せると落ち着くことが多いので、動画を見せながら穿刺等の手技を行っている。
- 母親に付き添ってもらう(手を握るなど)ことで、比較的スムーズに手技を行うことができる。
- 本人にプレパレーション(子どもの発達に合わせた説明)を何度か行うことで、スムーズに手技を行うことができる。
副作用と投与後の管理について
ヒュンタラーゼ脳室内投与後の副作用などについては小児科医が管理しています。ヒュンタラーゼ投与による副作用は、主に発熱や消化器症状です。
発熱
帰宅後、夕方に38℃程度の発熱が見られることがあります。多くの場合、本人が元気であれば翌日には熱が下がりますので、経過を見ていただき、発熱が続いているか他の症状が見られれば連絡するように伝えています。
消化器症状
嘔気や嘔吐などの消化器症状もしばしば見られる副作用です。嘔吐はご両親が最も心配される症状で、投与直後に発現することはなく、「帰宅してから1~2回した」、「夕食が摂れなかった」というケースがほとんどです。しかし多くの場合、翌日には回復して普通に通学(園)でき、食事も摂れていることから、「当日は食事を少なめにして様子を見て、水分を十分に摂ってください」と指導しています。
投与後の⽇常⽣活に、特に制限はありません
学校での運動制限については、サッカーや相撲、ラグビーといった頭部へのコンタクトがあるスポーツは控えていただくように説明しています。また、水泳については問題ありませんし、投与した当日の入浴や洗髪もかまいません。日常生活には特に制限はありません。
図1 蘇 哲⺠ 先生 ご提供
取材ご協力
蘇 哲⺠ 先⽣
2011年 3月 昭和大学 医学部卒業
2011年 自治医科大学附属さいたま医療センター
2013年 国立成育医療研究センター
2016年 国立成育医療研究センター 教育研修部
2018年 国立成育医療研究センター 集中治療部
2021年 国立成育医療研究センター 高度先進検査室
2022年 国立成育医療研究センター 小児内科系専門診療部 遺伝診療科
2022年 国⽴成育医療研究センター 遺伝診療センター 遺伝診療科, 現在に至る
(2022年10月現在)